西加奈子『さくら』

さくら

さくら

スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた。
いかにもな、典型的なキャラクターたち。彼らは当然のように恵まれていて、さり気ないフリしてそれを圧倒的に主張してくるこの本。当然このまま終わらせるわけはないだろうと後半の“転”部分を待ち望んでいたのだけど。。。何だよ。突きつけられた不幸の前に、あっさり脱落かよ。こりゃあ何だい?俺に絶望しろってことかぃ?ちょっとはその苦境に抵抗してくれよ。足掻いてその克服を描いてくれよ。

優しい空気。それだけ。何にも、何一つ変わったことなどない。