絲山秋子「イッツ・オンリー・トーク」

イッツ・オンリー・トーク

イッツ・オンリー・トーク

引越しの朝、男に振られた。東京・蒲田―下町でも山の手でもない、なぜか肌にしっくりなじむ町。元ヒモが居候、語り合うは鬱病のヤクザに痴漢のkさん。いろいろあるけど、逃げない、媚びない、イジケない、それが「私」、蒲田流。おかしくて、じんわり心に沁みる傑作短篇集。第96回文学界新人賞受賞。十年に一度の逸材、鮮やかなデビュー作。
ぬるい生活に浸りっきりの中、従兄弟が思わず再生していく。人との曖昧な距離感を求めていて、その人間関係が優しくて好感が持てる。特段の意味づけの無いごく身近な行為のようなセックスの存在も、低い温度だから鼻につかないし。収録作「第七障害」も良かった。
すごく、無駄のないような印象。読んでいるほうは目を離す隙がない。
いい作家さんに出会えました。